㈱キャステム
社長 戸田拓夫さん
先鋭的な経営手腕で業界けん引

2023年10月10日号

12月からキャステム真珠を発売

とだたくお(67)

ロストワックスやMIM(金属射出成形)など高度な鋳造技術で様々な精密機械部品を開発・製造するほか、近年では3D技術を応用した造形物の販売や農業などにも活動の幅を広げている。海外展開も1995年のフィリピン進出から始まり、タイやコロンビア、アメリカで現地法人を立ち上げ、このほどはベトナムにも進出。厳しい鋳造業界にあって、先見の明と先鋭的な経営手腕で業界をけん引し続けている。

躍進の秘訣を
「弊社の主軸である素形材業界では、バブル崩壊後の30年で事業所数が1/4にまで減少しました。弊社は当時売り上げが8億円程度でしたが、2022年度の決算ではグループ全体で93億円に上りました。生き残っていくには確かな技術力と効率化が必要と考え、多品種小ロット対応と海外展開を進めてきました。ベトナムの新工場には、フィリピン以降の30年のノウハウを詰め込んでいます」

―多品種小ロット対応とは
「受注する製品の1割は非常に面倒で、他社がやりたがらないものがありますが、そんな商品にも対応できる高い技術力を持つことが差別化で、信頼関係につながります。受注先を絞らないことで相手都合に振り回されないことも重要です」「17年に秋葉原で IRONCAFeを開設し、新規事業本部を立ち上げて、BtoCにも注力しはじめました。自由な発想で対応力を高めることが、新規開拓にもつながっております。また、有名アスリートの手型・足型商品や漫画のコラボグッズなど、まずやってみようの精神で挑戦し、うまくいっています。18年には社内で夢構想発表会をスタートさせ、社員の要望から農業分野も始めました」

―今後の展開を
「最近は、精密鋳造分野において国内屈指の生産力や技術力があると海外から注目されています。そこで、DX化で効率化と対応力を高めます。従来の金型製品は海外工場に振り分け、国内では3Dスキャナー・プリンターを活用した小ロット対応のデジタルキャストの会社を立ち上げます。現地に出向かずリモートでやり取りすることで経費を抑えます」

「農場がある宮古島近くの石垣島で真珠を養殖し、12月1日〔金〕に東京のジュエリー展で『キャステム真珠(KOHKOH)』=写真=として発表する予定です。同島にしかないシロチョウガイやクロチョウガイに、3D造形で核を作って、後で核を取って中に樹脂を入れて光らせる新しいアクセサリーにします」

「25年2月に事業を長男の戸田有紀専務(35)に継承し、私は会長に就任する予定です。その後は相談役として社員教育や後進の育成に注力します。今の時代、自社の利益だけを守ろうという考えでは産業界全体が弱くなり、産業が衰退します。連携して、世界的な視野で海外とも取引していかなければなりません。地方の小さな鋳造工場に精鋭社員を派遣して、その企業に合った生産体制を構築できるよう指導していくことが私に残された最後の仕事だと考えています」

▽㈱キャステム=福山市御幸町中津原1808—1、電084・955・2221

▽戸田拓夫=1956年8月、福山市生まれ。75年に福山工業高校卒業後、学習院大学数学科へ。77年に早稲田大学応用化学科へ入学。80年に体調を崩して中退後、キャステム(旧キングインベスト)入社。2007年、社長就任。剣道2段。体調を崩したのを機に始めた「折り紙ヒコーキ」がライフワークとなり、900種以上を開発。03年に広島県神石高原町に紙ヒコーキタワーを建設。折り紙ヒコーキ協会会長。