府中市教育委員会
府中版コミュニティ・スクール
10年の軌跡と成果を振り返る

2025年12月20日号

国府小のこどもCS委員が地域と話し合い

「コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)=CS」をご存じだろうか。保護者や地域住民の声を学校運営に反映させ、地域全体で特色ある学校づくりを目指す、という制度で、府中市は2012年からCSに取り組みはじめ、14年から5年かけて市内の小中学校・義務教育学校全10校へ順次導入した。導入して10年が経ち、その軌跡と成果を振り返った。 (山田富夫)

府中市では、03年から小中一貫教育に取り組み始め、府中小学校(市内4小学校を統合)・中学校を併設する府中学園が08年に開校(17年に義務教育学校へ)。10年に、府中明郷小学校(3小学校を統合)・中学校(2中学校を統合)で、同じく併設型の府中明郷学園がスタートした。

CSは、14年に明郷学園、15年に栗生・南小学校、17年に上下北・南小学校と上下中学校、18年に国府・旭小学校、19年に第一中学校で始まり、府中学園、府中明郷学園、上下中学校区(上下学園)、第一中学校区(栗生・南・国府・旭小学校、府南学園)の4つの中学校区で行われている。

CSの役割

CSフォーラムで話す宮田部長(写真奥)

CSの役割は、「校長が作成する学校運営の基本方針の承認をすること(必須)」「学校運営について、教育委員会又は校長に意見を述べることができること」「教職員の任用に関して、教育委員会に意見を述べることができること」にある。校長の「こういう学校にしたい」「こういう子どもに育てたい」という思いに助言を行い、地域住民や保護者が学校運営に対する当事者意識を分かち合い、ともに行動する体制であり、「辛口の友人」と評されることもある。ある地元住民は、CSの役割について「子どもが健やかに育つには、子どもを教える先生を私たちが支えてあげないと」と話していた。子どもたちを孫、教師を子のように見守り、支えていくのが地域の役割と話す人もいる。

始まりは府中明郷学園

府中のCSは、府中明郷学園で始まった。府中市教育委員会学校教育課の学事係長(現在は教育部長、広島県初のCSマイスター)の宮田幸治さん(56)が市教委の担当となり、府中明郷学園へ赴任したばかりの髙石元子校長と、地元を愛し、地域活性化にも強い関心を寄せていた立石克昭さん(㈱タテイシ広美社会長)がCS会長に就任して、タッグを組んだ。「デメリットは、知恵と工夫でメリットに変えていこう」という共通の思いを持った3人が、その後の府中版CSの流れを決めたといってよい。

立石会長の肝いりで、地域を味方にして不確実な世界を生き抜く課題解決能力を身につけてもらおうと、アントレプレナーシップ(起業家精神)開発カリキュラムに着手。今は毎年8年生(中学2年生)になると模擬会社(現「リンクス」)を立ち上げ、役員や役職を決めてそれぞれの職務に応じて行動し、地元の事業所と協働で商品を作り続けている。また、18年の西日本豪雨の水害で校舎が土砂に埋まった際は、CSで協議し、「教師は授業や子どもの心のケアに専念し、環境整備は保護者や地域が引き受ける」と学校を後押しした。それぞれの役割を果たそうという合意形成ができたことで、スムーズに復旧が進んだという。同校のCSは2度の文部科学大臣表彰を受けている。

栗生小学校のクリッティー

CSフォーラムでの栗生小の発表

栗生小学校では、当時のCS会長の赤繁真示さんを中心に、同小学校のキャラクター「クリッティー」を作製。ステッカーも配布され、保護者や地域の協力者が車に貼って「いざとなったらすぐに保護する子どもたちの味方」として見守り活動を行っている。さらに、保護者や地域の想いを詰め込んだ「クリティーソング」を赤繁さん夫妻が作詞作曲。「校歌よりも聞きなじみのある曲」と言われるほど、長く歌い継がれることになった。府中明郷学園の翌年、同校CSも文科大臣表彰を受けた。

国府小は演JOY祭

国府小学校区では、地元に子どもたちとふれあう祭りがなかったことから、CSを通して、地域活性化のひとつとして「国府演JOY祭」を立ち上げた。同校では、児童会とは別に「こどもCS委員会」を立ち上げ、演JOY祭についての会議に参加し、地域の役員から要望などを聞いて自分たちができることを提案したりしている。この取り組みで、同校CSも文科大臣表彰を受けた。
 
課題は成長のための教材

ただ、課題がないわけではない。地元と密着した小規模校と比べて、広範囲から子どもたちが集まる大規模校は地域との接触が薄くなりがちだ。また、地域行事に参加するため家族で過ごす時間が少なくなったり、教師が休日出勤することになったりと、プライベートの時間をどう折り合いをつけるかという問題もある。

そうした問題の「正解」は一つではない。まずは子どもを中心に、学校と地域と保護者とが自分事として捉え、一緒に悩み、自分たちなりの最適解に近づけていくことだ。三者がそれぞれ真摯に向き合うことで、子どもたちには、そうした大人たちの背中を見せることができる。「ああいう大人になりたい」「ああいう大人になってはいけない」と、子どもたちの未来像にいいヒントを与えることができるはずだ。

まとめ

少子高齢化が進み、2015年に人口4万人だった府中市は、10年経った25年には3万4千人にまで減少している。若者層(15―24歳)の転出超過の割合が多く、10年後の35年には3万人を切ると想定され、14年の「日本創成会議」や24年の「人口戦略会議」では消滅可能性自治体の一つに挙げられている。

宮田部長は、「この10年で府中市内のCSは4度の文部科学大臣表彰を受けました。CSの取り組みは〝温故創新〟の取り組みであり〝人は、人を浴びて人になる〟機会をつくる場でもあります」と話し、CSはただ会議をすることが目的ではなく、CSの仕組みを活かして、大人や学校、地域が変わっていくこと、子どもたちが「真」の生きる力を身に付けること、誰もが持続的な幸せを感じることができる社会を「当事者」として創ること、を目的にしたいと話している。

※なお、府中明郷学園のCSについては、2017年2月10日号で特集しております。