ワイド岡山
ムスリム観光客を呼び込む
岡山独自のインバウンド戦略
2018年05月20日号
訪日外国人観光客(インバウンド)の増加が地方経済に大きな影響を与えている。神戸・広島という国際的に有名な観光地に挟まれた岡山は、ムスリム(イスラム教徒)旅行者を呼び込む独自戦略で存在感を示そうとしている。
2016年、岡山市産業観光局内に「岡山型ヘルスツーリズム連携協議会」事務局が置かれた。同協議会が5カ年計画で進める観光事業の中で特徴的なのがムスリム(イスラム教徒)旅行者を呼び込むための戦略で、内閣府の地方創生推進交付金の対象事業に採択された。
イスラム教は中東アラブ民族の宗教と思われがちだが、国別ムスリム人口上位4カ国はパキスタン、インドネシア、インド、バングラデシュで、世界人口の約4分の1を占めるイスラム教徒の6割以上がアジアに居住している。これらの国は目覚ましい経済発展を遂げているため、ムスリム旅行者の増大が予想されている。
イスラム教徒が海外旅行する際に障壁となっているのが食物禁忌だ。信徒は旅行先のレストラン等でも「神に許されたもの」を意味するハラル食品だけを口にするが、イスラムの食物禁忌は豚肉を避けるといった単純なものではない。羊肉の中でも一定の宗教的基準に従ってと殺・調理されたものを専用の調理道具、食器で提供したものだけがハラルとされ、外見では判別不能だ。ハラル食品に認証を与える機関は世界中に200以上、日本国内だけで15以上あるものの細部の基準がそれぞれに異なり、ムスリム個々人においてもハラルを守る厳格さに幅がある。
ピーチマークを制定
現実的に取得困難なハラル認証に替わるものとして岡山型ヘルスツーリズム連携協議会は独自のムスリム対応基準「ピーチマーク」を作成した。飲食店、宿泊施設、製造業を対象としてムスリム・フレンドリーな対応のレベルによってⅠ、Ⅱの2段階ある。Ⅰはメニューが英語で表示され豚肉を使わない料理を提供できるなどが条件。Ⅱはハラル認証肉を使用し、宿泊施設に礼拝スペースを設けるなどの要件が加わる。協議会ではピーチマークを取得している飲食店、弁当店、ホテル等を掲載した英語版ガイドブックを作成。岡山駅地下のももたろう観光センターに置く他インドネシアやマレーシアで開催される観光展で配布した。
宿泊客に英語対応ができるホテルグランヴィア岡山(岡山市北区駅元町)は昨年ピーチマークⅠを取得していたが、今年になって館内にイスラムの礼拝用個室を設け、宿泊施設として初のⅡを取得した。メッカの方角を示すコンパス「キブラ」を
天井に取り付けた客室を5部屋用意し、豚肉やアルコールを使わない料理も提供する。今年4月には協議会が招いたマレーシアの国営放送RTMのスタッフが同ホテルを取材し、マレーシア向けの番組を作成した。地域がまとまってイスラムに対応する動きは珍しく、ムスリム旅行者の注目を集めそうだ。