御調町倉戸自主防災会
ウェブアプリ「防災lessQ」
自主防単位で情報共有を促進

2024年02月10日号

左から井上社長、門田会長、赤坂社長

今年1月1日に能登半島を襲った大地震は最大震度7、マグニチュード7・6を示し、その後1週間にわたって震度6以下の余震が続いた。今回の災害に際し、阪神淡路や東日本などの大災害から我々が得た教訓は生かされただろうか。SNSによって様々な情報が簡単に入手できる時代だが、情報が多すぎて真偽の付かないことも多く、ITの急速な進化についていけない〝情報弱者〟も少なくない。そんな悩みを解決する、尾道市御調町倉戸自主防災会(門田巧会長)の新たな取り組みを取材した。

広島県は県土の約7割が山地で、水に弱い「真砂土」の土壌が広がっており、地震よりも大雨の影響による土砂災害が多い。危険カ所数は全国1位の約3万2千カ所だという。

2018年の「平成30年7月豪雨」では死者108人、行方不明者6人、家屋全壊1029戸、半壊2888戸などの甚大な被害をもたらした。岡山県でも、倉敷市真備町などを中心に死者66人、行方不明者3人、家屋全壊4828戸、半壊3302戸などの被害が発生している。

そうした甚大な被害を踏まえ、また、近い内に起こるであろうといわれる南海トラフ大地震に備えるために、各自治体は公民館などを拠点とした自主防災組織立ち上げを呼び掛け、いざというときに自律的に動けるよう促している。また、これまでの教訓から、各地でハザードマップの作製や活用、防災アプリなどが作られており、積極的な地域では自主防主催の防災・避難訓練などが定期的に行われている。

ただ、実際の避難については、警報が出されても避難しない人が多いという課題がある。今回の能登の大地震ではNHKアナウンサーが繰り返し避難を呼びかけて話題となったが、往々にして自分たちの地元では影響がない場合が多く、「避難して何もなかったことは良かったことで、万が一何かあっては取り返しがつかなくなる」と、防災訓練では報道とハザードマップを頼りに「まずは避難すること」を勧めている。

「防災lessQ」を製作

防災士であり、防災井戸の啓発活動に注力する㈱赤坂ボーリング(尾道市御調町丸門田1467—1、電0848・76・2238、https://i-ido.com/)の赤坂雅士社長は、ピンポイントで地元の情報を網羅できるハザードマップ作りに取り組み、デジタル情報の取りまとめなどを㈱井上デザイン(府中市高木町114—9、井上拓也社長、電0847・45・3933)に相談したところ、同社が開発した「meeQ(ミーキュー)」を応用し、「防災lessQ(レスキュー)」を製作した。

地域に合う防災情報が必要

「防災lessQ」は一つのQRコードで複数のコンテンツを一元管理できるウェブアプリであり=写真、ネイティブアプリと違ってスマホにダウンロードする必要がなく、費用も格安(開発費に十数万円、維持管理費として年間3万円)で済む。また、スマホだけでなくいわゆるガラケーからでも繋ぐことができ、基本画面にあげられたボタンをクリックするだけで各コンテンツに即繋がるため、機械操作が苦手な人にも比較的扱いやすいという。

県や市の防災アプリは様々な人やニーズに対応できるよう作ってあるため、自分には関係のない情報も多く、情報過多になることがある。尾道市にも、親しみやすい猫のイラストが入った「尾道防災アプリ」があるが、最新情報のすぐ下に言語選択のボタンがあり、防災情報として町内無線の内容、防災MAPなどが配置され、防災リンク集の中はコンテンツが多岐に渡っていて、苦手な人はどれを選択すればよいか迷うし、安否確認ボタンは操作がやや複雑だ。

「防災lessQ」を運用

赤坂社長が住む倉戸地区は、御調川と八幡川が合流する河川氾濫が起きやすい地区で、地元住民は大雨が降るたびに川の状況を心配する。防災lessQでは、自分が住む町を流れる川のWEBカメラや水位計、緊急連絡先、町内の連絡網や安否確認用の掲示板など、情報を細かく選別することができる。特に一番上の安否入力ボタンは、いくつかの項目をクリックするだけで自分の状況を簡単に知らせることができるよう工夫している。

2023年11月に同地区で防災訓練を行い、その場で集まった住民にQRコードを示して、各自が持つ携帯電話で同ソフトをすぐに使えるようにし、住民の反応をうかがった。65歳以上の高齢者が7割になるという同地区でもほとんどの家に携帯電話があり、同ソフトはほぼ全員が使いこなせたという。そこで20—30戸単位での班編成を行って緊急連絡網を設定し、避難状況や逃げ遅れなど、いざというときの情報共有を図れるようにした。

赤坂社長は、「避難の空振りが何度も続くと誰しも緩みが出てしまうものです。WEBカメラを通して川の様子を見たり、地元の他の情報と照らし合わせることで状況がつかみやすくなりますし、わざわざ危険を冒して水位を見に行くこともなく、避難するべきかどうかの判断も付けやすくなります」と話す。

ソフトについては、プッシュ通知を入れることや個人情報を扱うことから情報漏洩を防ぐ対策、浸水ハザードMAPなど地元ならではの情報を盛り込んでいくことを今後検討していくという。

まとめ

災害時に、数十戸程度の小集落で共有すべき情報は多くない。生存確認と今いる場所、家族の安否、安心して食事や寝ることができる避難場所などであり、市町村単位になると莫大な情報量になって回線もサーバーもパンクしてしまう。

防災lessQはクラウド上で管理しており、管理者のパソコンが水没したとしても情報のやり取りは可能で、また、地区単位であれば情報共有も容易だ。

携帯電話が普及し、ほとんどの人が個人で持っている。うまく活用することで、自主防も電話や紙の上で状況を集約する必要がなくなり、よりきめ細やかな避難誘導や安全が担保できるようになるだろう。地域SNSで個々人が容易につながれば、地域コミュニティがSNS上で再確立できるかもしれない。