府中市上下町
中山間の過疎化は喫緊の課題
重伝建へ向けて啓発活動開始

2023年08月20日号

上下町〝白壁の町並み〟

府中市上下町は四方を山に囲まれた中山間地域にある。平成の大合併で2004年に南隣の府中市と合併。2023年8月1日現在、府中市の人口が3万5434人で上下町はそのうちの3810人と約1割を有するが、毎年漸減するなど他の市町同様、過疎化や高齢化が急速に進んでおり、喫緊の課題になっている。ただ同町は、他所にはない独自の繁栄を築いた過去があり、その遺産を地域資源として有効活用しようと、国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)指定に向けて本格的に動き始めた。

上下町の歴史は古く、日本最大の産出量を誇った石見銀山と福山を結ぶ石州街道の宿場町として栄え、1700年からは徳川幕府直轄の天領となって代官所が置かれた。幕末頃には石見銀山の銀産出が減り、補填するため貸付融通の制をとったことから金融業が盛んとなり、明治期には角倉銀行(広島銀行の前身)が創設されるなど大いに繁栄した。江戸から明治、大正にかけて華やかだった頃に造られた重厚な建物が今も多く残されている。

まちおこしの歴史

高度経済成長期には町並みが徐々に〝近代化〟して、かつての面影が消えつつあったことから、78年頃から町おこし団体が多数発足した。歴史的建造物を修繕し、町並みの景観を保とうとする家も現れ、賑わいづくりの一環で「翁山世界一夢のツリー点灯」なども始まった。

上下町商工会が92年にキャッチフレーズ「白壁の似合うロマンのまち」を策定し、93年に上下ガイド協会発足。94年に上下町が景観形成住民協定を締結して「景観形成事業」を始め、2005年までにファザード改修などで64件が町並みづくりに協力した。

02年から06年までまちづくり総合支援事業で電線の地中化や街路灯の整備などを行ったが、それまでまちづくりを支えてきた人たちの高齢化などもあって活動が衰えた。

伊藤代表理事

そんな折、上下歴史文化資料館が商店街有志に声をかけ、各家に眠る伝統的なひな人形を飾った「上下ひなまつり」がスタートした。アットホームな雰囲気が好評でマスコミにも取り上げられて、第3回の頃には2万人が訪れるまでになった。現在、上下町のまちおこしなどの中心的役割を担っている〔一社〕天領上下まちづくりの会代表理事の伊藤敏雄さん(70)は「府中市と合併で、それまで地域の中心地から合併後は市の端になり、自分たちの独自性が失われてしまうという危機感を持った。存在感をしっかりアピールしていかなければならないと痛感している」と振り返った。

主な観光ポイント

大正期に建てられた芝居小屋の翁座は、終戦当時には高田浩吉・鶴田浩二ら有名俳優も舞台に上ったという。1996年には萩本欣一さんが訪れ話題になった。2018年に府中市に寄贈されて、20年より国の登録有形文化財として登録された。来年秋には中村勘九郎一座が公演する予定という。ほかにも上下キリスト教会(旧角倉邸蔵)や上下町商工会館(旧上下警察署庁舎)など様々な景観づくりに寄与する修繕も行われた。

翁座

また、2016年頃から、主にグリーンツーリズムを含めた観光・地域づくりの推進を行っている〔一社〕九州のムラが関わり、外国人旅行客に向けた観光ツアー「天領上下ツーリズム」が始まった。コロナ禍で一時中断していたが、今年度は8組、来年度からは16組に増える予定だ。様々な国から参加した十数人が、日本各地の〝隠れた名所〟を2週間かけて巡るツアーで、上下町では、町内の寺院の見学、格技場では剣道体験、商店街内を散策して骨董品などの買い物やレトロな町並みの散策を楽しむ。

上下町の弱み

こうした地域の強みに対して、歴史的な町並みや歴史的建造物は多くあるものの他地域との差別化が明確でない▽食や土産物などの資源が少なく観光客が地域内で消費行動に移れない▽宿泊客が少ない(観光客数に比べて1%程度)▽後継者不足から空き家や空き店舗が増加、などの弱みもある。そこで、重伝建の認定に再着目し町の再生を目指し始めた。

重伝建とは

周囲の環境と一体をなして歴史的風致を形成している伝統的な建築物群で価値の高いものなどを指す「伝建地区(伝統的建造物群保存地区)」として、地方自治体が地区内の保存活用を進め、国はその市町村からの申し出を受けて、価値が高いと判断したものを重伝建(重要伝統的建造物群保存地区)に選定する。現在全国に104市町村で126地区(21年8月現在)が指定されており、岡山県には5地区(倉敷市倉敷川畔・津山市城東・津山市城西・高梁市吹屋・矢掛町矢掛宿)、広島県は福山市鞆町はじめ4地区ある。

上下歴史文化資料館

伝建は、文化的価値の高い歴史的な町並みを保存するだけでなく、観光資源としての活用や地域の環境、防災施設の整備など、暮らしやすい生活を創造し次世代に継承していくために設けた制度であり、市が地域住民との合意のもとに保存地区を設定し、保存に注力することが必要という。さらにその保存にかかる保存計画もあわせて国に申請し、国が「重伝建」として認めることで、国からの財政支援(歴史的景観を守るための修理・修景工事費用や税制の優遇措置、案内看板の設置など)が受けられるようになる。

重伝建に向けはじめの一歩

今年3月3日の府中市議会で小野申人市長は一般質問に答え、同市上下町の白壁の町並み一帯について重伝建指定に向けて動くと明言した。これにより、上下町のブランド化が進み、来町者や移住者が増えることに町民は期待を寄せている。伊藤代表理事は「指定予想地域の大部分を占める約80軒の合意と協力が得られています。行政にはプロジェクトチームを作っていただき、スピード感をもって推進してもらいたい。年々高齢化などで町の体力が弱まってきていますが、行政の動きに即応できるよう、啓発活動に注力して住民の意識を高め、市と二人三脚で重伝建の指定を得ていきたい」と意欲的に語った。