政経パトロール
「福山に天災は無い」の神話が崩壊
長者ヶ原断層が動けば直下型地震に

2016年08月01日号

南海トラフ巨大地震で福山経済混乱

 「福山は何もないええ所じゃ」。温暖な瀬戸内の気候に恵まれ、ここ数十年台風が来ようが、地震が起きようがさして大きな被害はなかった。そんな平和な日常を、6月22日から25日にかけて降り注いだ大雨は一気に覆した。福山市の発表によると、大雨による被害は27地区287件で、市内全域に及んだ。異常気象による大雨や台風の被害、地殻変動による東北、熊本の地震の被害など全国で災害が頻発している。温暖な瀬戸内といえども、何が起きるか分からない。大雨の次は地震かもしれない。福山市防災会議、福山大学・安心安全防災教育研究センターが作成した資料をもとに地震、津波の被害について考察する。(稲毛一郎)

福山市周辺の活断層 引用:福山市防災計画

福山市周辺の活断層
引用:福山市防災計画

 福山市の地質は古生層、花崗岩類、第3紀層及び沖積層に分かれており、中心市街地など市の区域内では沖積層が最も広く分布している。
 沖積層は未固結で、地層の強度としては非常に軟弱と言われており、重量建築物を建設する場合には、基盤岩や基底礫層まで支持部材を打ち込む必要がある。地震動に弱く、水分を多く含む層であるため、液状化現象が起こりやすい。臨海部の埋立地、干拓地では地震時には震動の震幅が増大する可能性があるという。

3本の活断層

 2015年度「福山市地域防災計画(地震・津波災害対策編)」によると、福山市では3本(図を参考)の活断層が確認されている。これらの活断層の活動は、広島県地域防災計画(震災対策編)で想定している活断層よりも危険度は低いものの、直下型地震の危険性も無視できない|としている。
① 「福山北断層」芦田川左岸の北本庄付近から神辺町上竹田付近にかけて北東に約10㎞に渡って断層が想定されており、奈良津町には福山衝上断層が確認されている。
② 「鞆断層」芦田川右岸の水呑大橋付近から鞆町平地区にかけて西東に約10㎞にわたって断層が想定されており、熊ヶ峰山地に沿って形成されている。
③ 「長者ヶ原断層」本郷付近から長者ヶ原(高増山の北斜面)を通り、芦田川右岸の山守橋付近にわたって想定されている。国土地理院が2004年10月に発表した「都市圏活断層図」においては、御幸町上岩成の福山平成大学北側付近から北東方向に約2㎞想定されている。
 これらの断層のうち地震を起こす可能性が高いのは長者ヶ原断層だ。福山市では直下型となるため最大震度7から、揺れが少ない地域で5弱に見舞われる。
 その場合全壊が3万5305棟、半壊4万8537棟となり、人的被害は死者2223人、負傷者1万5652人が想定され、未曾有の被害をもたらす。

M9クラス
南海トラフ巨大地震

 20××年○月○日、微震動が続き、猛烈な勢いで身体を左右に揺さぶる横揺れが・・。東北や熊本のように、大震災は予告なしにやってくる。

福山に甚大な被害を及ぼす南海トラフ 引用:Newton別冊

福山に甚大な被害を及ぼす南海トラフ
引用:Newton別冊

 南海トラフ地震は、我が国で発生する最大級の地震だと言われている。その特徴は「極めて広域にわたり、強い揺れと巨大な津波が発生する」、「時間差において複数の巨大地震が発生する可能性がある」、そして「南海トラフ巨大地震となった場合は、被災は広域にわたり、その被害はこれまで想定されてきた地震とは様相が異なる」という。
 福山市防災計画の中の「南海トラフ地震防災計画」によると、南海トラフ巨大地震は、地震の揺れとそれに伴う火災による建築物の被害が、これまでの記録に残る地震災害とは次元の異なる甚大な規模となり、救急・救命活動、避難者への対応、経済全体への影響など、対応を誤れば社会の破綻を招きかねない。人的・物的両面にわたって被害の絶対量を減らすという観点から、事前防災の取り組みがきわめて重要である|としている。
 南海トラフ地震が発生した場合福山で想定される震度は5弱から6強、津波の到達時間は270分、満潮時に到達すれば最高津波水位は3・3mになる。想定される被害は全壊家屋が1万6528棟、半壊5万2004棟、死傷者6221人、負傷者6529人と、かつてない規模になる。

福山大で防災研究

松永地区の津波緊急避難場所 「今津小学校」

松永地区の津波緊急避難場所
「今津小学校」

 福山大学・安全安心防災教育研究センターは7月11日、文部科学省の「学校施設の防災力強化プロジェクト」委託先に選定され、松永における津波の緊急避難についての研究を進めている。
 松永の中心部はもともと海だったが、江戸時代に干拓され、海抜ゼロメートル地帯が広がっている。南海トラフ地震が起きた場合、津波が松永に到達するのは約4時間半、それまでに避難すれば人的被害を食い止めることが出来るという。
 同大学では津波緊急避難場所に到る経路が、周辺住宅の倒壊や火災により通行不能になるリスクを考慮した災害避難マップを作成し、経路・避難行動両面からの課題を抽出する。
 海抜51mにある今津小学校を津波緊急避難場所として、夜間は学校をライトアップして松永地区のどこからでも見えるようにし、真っ暗になる本郷川沿いや海岸線沿いに街灯を付けて、夜の地震でも避難できるようにする|など、津波が押し寄せた際できるだけ被害を少なくする方法を研究中だ。