岐路に立つ広島空港
身近に感じる施設へ
望まれる数々の施策

2019年11月10日号

空港・鉄道・港湾活かした街へ(65)

 この連載も取材を兼ねて海外(台湾)へ飛び出したり、三原の駅前再開発地域に立ち寄り、その状況なども伝えてきた。それは単に”道草”を喰って回数を費やしていたのではなく「空港・鉄道・港湾を活かした街」をテーマとした本編に欠かせなかったセグメントであり、先号(10月10日号)で触れた「ひろしま空の日~ふれあい秋まつり」も記者(筆者)としては記しておかなければいけないことだった。

 この号ではその舞台となった広島空港を訪ねて見聞したことを織り交ぜながら、身近にあって縁遠い施設と捉えられているこの空港をどのように郷土の街づくりに活かしてゆくかを考えてゆきたい。(西亀 悟)

10月10日に開催された「ひろしま空の日~ふれあい秋まつり」の空は澄み渡り、ほのかにひんやりとした風が訪れた人々の頬を撫でていた。

  会場のあちらこちらで歓声が上がり、空港ターミナルビルの特設会場では子どもが機長やCAといった憧れの職業の制服を着せてもらい、その誇らしげな姿をカメラで写す親御さんの顔も輝いていた。

  このコーナーでは検疫所の職員が特定外来生物に指定されている「ヒアリ」を顕微鏡で見せてくれ、人の生命をも脅かすこうした生物を「空の港」という水際で防いでいる取り組みなども知ることができた。

  また、このイベントの実行委員会(事務局・三原市地域区画企画課内)が事前に募った「滑走路ウォーク」=写真右ページ①=は午前5時にスタートする早朝にも関わらず子ども連れの家族が赤く染まった日の出を浴びながら歩き、10時からの「管制塔見学」=同左ページ②=でも施設の中に入らせもらうなど希少な体験をすることができた。

イヘントのメーン会場となった空港ロビー

その管制塔が間近に見える空港ロビーの送迎デッキ=同③=には滑走路へ飛来し、飛び立つ航空機を眺めながら大空の彼方にある異国へ思いを馳せる人もいたのではなかろうか。

  また、空港ビルのロビー=同④=では三原、尾道、竹原、東広島、大崎上島、世羅などのブースが並び、その机には郷土をアピールするパンフレットが積まれていた=同⑤。

 この日は晴天に恵まれたこともあって例年になく多い人出で、特別に開放した無料駐車場は午前8時に開門してすぐに満杯になった。そこに並んだ車は8割ほどが福山ナンバーであり、残りが広島、そのほか神戸、福岡といった他県のプレ

地域活性化の拠点へ

 前号(11月1号)で山間部に位置するこの空港へのアクセスの脆弱性についてリポートするなかで、最寄りの白市駅から鉄道で結ぶ計画は340億円の事業費、年間1070万人の利用者が見込めなければ採算の確保が難しいが、現状は300万人前後に留まっていると記している。

  こうした状況を踏まえたうえで、湯崎英彦知事は「鉄道に替わる幹線道路の拡充整備に努めたい」と方向性を示している。その主たる財源は税金であり、その用途に理解を得るには県内の人々が「日常の生活において縁遠い施設」と受け止められているこの空港を身近に感じてもらうことが大切で、このイベントはその試みの一つとなっていた。

  そして、空港を地域活性化の拠点としての側面も持っていると考えるなら、この施設そのものの魅力を高めてゆくことが重要で、これから経営を委託される民間事業者(特定目的会社)がそれにどのように応えるか見守りたい。

  とはいえ、空港は飛行機でやって来る遠来の客を迎えたり、この空港から飛び立つ人のためにあるのが本来の姿であり、そうした旅客を300万から400万、500万人へと増やしてゆくことが望まれる。

  問われるのはその旅客の内訳で、現在は300万人のうち8割が東京便、残りの1割程度が札幌、仙台、福岡、九州などの地方便を利用しており、国際便は1割程度の35万人前後に留まっている。

  その理由は3千m級の滑走路を擁する国際空港でありながら、海外路線(定期便)が韓国、中国(大連・北京・上海)、台北、香港、シンガポールに留まり、今年12月に就航するタイ便を含めても数カ国に過ぎない。

インバウンドの推移

  国内で「インバウンドの促進」が連呼されているなかで広島県における訪日客は次のように推移している。

  94年のアジア広島競技大会で初めて30万人を超えて以後順調にその数は増えていたが、03年にSARS(急性呼吸器症候群)が東南アジアに広まると前年の37万人から35万に減少した。翌年から上昇へ転じ06年に50万人を突破。10年に60万人を超えた翌年は東日本大震災の影響で49万人に減少。翌年からインバウンドの促進によって68万人へと持ち直し、14年に105万人、15年が166万人、16年に202万人、17年には243万人と上昇傾向にある。

 ただ、そのすべてが広島空港を目指して訪れているわけではない。この空港の国際便の旅客数は35万人で、これも往路と復路の搭乗者数であり、実際に海外から訪れている訪日客の数はその半分程度に過ぎないだろう。ほかの200万人余は他の国内空港を経由して来るか、新幹線などに乗って来ていると思われる。

  その訪日客も4、5回目の来日で訪れているのが大半で、その理由は10月20日号の特集で詳しく記しているように1回目の来日では羽田が40%を占め、2回目以降に中部国際や福岡、4回目からようやく広島のような地方空港を選んで来日してくれている現実を踏まえ、これかのインバウンド施策を講じてゆく必要がありそうだ。

アウトバウンド促進

  また、空港は訪日客のためだけなく、海外へ渡航する人へも思いを致した施策も重要になってくる。

  いわゆるアウトバウンドの促進で、前述の「空港まつり」に訪れた子どもたちが、この日夢見た渡航を早い時期に実体験できる支援とか、中・高・大学生の留学を推進する制度の拡充。若い世帯や高齢者が安心して出掛けられる海外旅行プランの開発。さらに旅券に関しては現行の1万6千円(5年期間)、1万1千円(10年期間)に加え、12歳未満は6千円(5年期間)となっているが、これに高齢者割引といったものも考えてもらたい。

  こうした制度・施策によって県民、市民の渡航者が増え、異国での見聞を重ねることで国際的な見識が深まり、それがやがては郷土の発展に寄与してくれるものとなるーー。こう考えるのも「空港を活かした街づくり」に繋がってくるのではないかと考える。

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