アサヒタクシー
鞆町・平地区で「住民の足」に
グリスロの運行を強化する構想

2022年03月10日号

アサヒタクシー・山田康文社長

 時速20km未満の電気自動車を活用した移動サービス「グリーンスローモビリティ(グリスロ)」を2019年に全国で初めて日本遺産の名勝「鞆の浦」で運行を始めた広島県東部最大手・アサヒタクシー㈱(福山市新涯町2-20-11、電084・954・7700)の山田康文社長(51)が、同市鞆町後地の通称「平(ひら)地区」で「住民の足」になるようにグリスロの運行を強化する構想を明らかにし、注目を浴びている。この構想は、このほどNPO法人「鞆・平港から開こう会」(事務局=同市鞆町後地1567-1、電同982・3333)の岡崎健二理事長(58)と対談して明らかになった。   (西原 洋)

 アサヒタクシーは、国土交通省が2018年に提案したグリスロをいち早く導入。電気自動車型のタクシーとして車両を改良した「グリスロ潮待ちタクシー」(4人乗り)を19年の鞆の浦に続き、20年には福山城公園を起点とする周辺エリアで「グリスロ城町タクシー」を運行した。

「鞆・平港から開こう会」岡崎健二理事長

 グリスロについて山田社長は「環境問題や、高齢化、過疎化と言った問題がある中で、地域の足の確保という課題の解消や環境に優しい乗り物として小型、低速、安全で開放感、環境性にすぐれ、狭い道や坂道でも、安心して手軽に利用していただける新しいタイプの交通手段。バスや通常のタクシー車両では走行が困難だった地域への送迎を可能とする新たなサービスになる」と期待を寄せる

「鞆の浦に特別な愛着」
山田社長の祖母が鞆出身

 グリスロを鞆の浦で始めたのは、山田社長の祖母が鞆町白茅の出身であった関係から「鞆の浦に特別愛着があった」ことと、「鞆の観光振興と鞆町が抱えている高齢化と人口減少問題を解決する一助になれば」という思いからだったという。特に思い入れが深いのが「鞆町の住民の足として安い料金で日常の買い物や病院通いに利用していただきたい」ということで、運行を強化する候補地の一つに浮上してきたのが「平地区」だ。

鞆・平港から開こう会
トンネル完成に期待

「鞆の浦」で運行する「グリスロ潮待ちタクシー」

 同地区は漁港「平港」に面し、沖の無人島「玉津島」とは防波堤で繋がり、島には「玉津島神社」、防波堤の先には「福山港玉津島防波堤東灯台」がある。さらに「淀媛神社」や、集落の自主独立を示す「法界(ほうかい)」と名付けられた歴史ある石碑も設置されている。しかし、現状は人口減少傾向にあり、2018年の人口・426世帯1014人から30年には354世帯715人に減るものと見られている。住民は危機感を募らせ、20年に「鞆・平港から開こう会」を設立、平港の有効利用・活性化を行い、将来的には観光客を誘致したい考え。

 そんな中、住民が期待しているのが、広島県が行っている鞆町の県道福山鞆線と同鞆松永線を結ぶ延長約2・3㎞(うちトンネル部分2・1㎞)の、いわゆる「山側トンネルルート」の工事で、総事業費約110億円で進められ、23年度末に完成が見込まれている。

 同ルートの完成で期待できるのが、工事中のトンネル西出入口上部にある名刹「医王寺」(同町後地1397、宇喜多義尚住職)に至る約800mの遊歩道だ。グリスロが通行できるように整備すれば、鞆港など鞆の浦の全景が一望できる〝ビュースポット〟地点に容易に行くことができるという。

住民や観光客の利便性に
グリスロを低料金で運行

 岡崎理事長は「トンネルが完成するまでに観光と共に、住民が快適に住めるインフラ整備を関係機関に働きかけて実現したい。その手段としてグリスロは最適で、アサヒタクシーの力をお借りしたい」と述べ、「福山市が描くJR福山駅から尾道市浦崎町までの『ふくやまサイクリングロード(しおまち海道)』とも連携させ、『しまなみ海道』を含め、尾道からの流入客も取り込みたい」と夢を描く一方で、高齢化で住民が買い物や病院に行くのに不自由さを感じていることを心配している。

 山田社長と岡崎理事長は「それらの問題は、古くからある制約、規則、慣習などの厚い壁を感じつつも、両者が全面的に協力して解決しなければならない。グリスロを低料金で運行できれば、住民だけでなく、観光客にも利便性が図れ、強いては鞆の浦の発展に結び付くのではないか」と話した。