BOOTH for Startups
中四国のスタートアップ支援

2022年10月01日号

岡山市北区問屋町のBOOTH BLD(ブース・ビルディング)=写真=の一角に集う、弁護士法人アインザッツ・愛和税理士法人・司法書士法人SORAは今年5月、岡山県を中心とした中四国のスタートアップ企業のニーズをワンストップで解決するため業務提携を結び、「BOOTH for Startups」(ブース・フォー・スタートアップス、=以下、BFS)を立ち上げた。東京に比べ、スタートアップに関する情報が圧倒的に少なく、サポート体制が整っていない現状を打破するべく始動した3士業を取材した。(岩田典子)

スタートアップとは

そもそもスタートアップとは何なのか。「スタートアップは単なる起業ではありません。自分のビジネスの潜在性だけを武器に、投資家から事業資金を出してもらい、代わりに株式を渡すエクイティ・ファイナンスが基本になります」と五十嵐弁護士は話す。
BFSでは「スタートアップ」を、成長スピードが速い▽イノベーションを志向する▽EXIT(イグジット)を目指す企業、と定義する。イグジットとは、その株式を持つ創業者や出資者が株式を売却することで、投資資金の回収や利益を獲得することを意味し、その種類としてはIPO(株式上場)やM&A(企業買収)などがある。つまり、今までにない商品やサービスを創って販売し、短期間で成長することで、投下資金の回収の実現を目標とする起業を指す。

店舗の開業など、これまでの「スモールビジネス」の起業との大きな違いは資金の調達方法とイグジットにある。銀行から資金を借りるデット・ファイナンスではなく、株式を発行してベンチャーキャピタルや事業会社などの投資家から出資をしてもらうエクイティ・ファイナンスをメインの資金調達方法とする。

米国で生まれたスタートアップの事例には、空き部屋を貸したい人と部屋を借りたい旅人をつなぐWebサービス「Airbnb」(エアービーアンドビー)や、配車サービスに登録すればタクシー会社に勤めていなくてもドライバーとして働くことができるライドシェアサービス「Uber」(ウーバー)などがある。

地方の情報格差

東京に比べ、地方都市はスタートアップを支援する土壌が育っていない。岡山も例外ではなく、スタートアップに関する情報とサポート体制が圧倒的に少ないため、イノベーティブなビジネスが生まれにくいのが現状だという。

銀行からの借り入れが難しいため、スタートアップは株式の発行による資金調達を目指すところから始めることになるが、それには複雑な手続きが必要だ。また、創業後は、追加の資金調達をいつ、いくらで、何%の株式放出で行うのかといった資本政策など、段階ごとの事業計画が必要不可欠となる。そのため、それぞれを専門とする士業のサポートが欠かせない。

五十嵐弁護士は「イノベーティブな事業は、市場がまだ世の中に存在していません。そのため貸す側のリスクが高く、伝統的な銀行借り入れの方法は基本的に使うことができません。もし、エクイティ・ファイナンスという手法が使えないのだったら、昔ながらのビジネスしかできないということになります。スタートアップを起業できる環境は存在することが当たり前のインフラです。我々はそのインフラとなり、中四国のイノベーションをサポートしていきたい」と語る。

岡山のスタートアップ

岡山では、「おかやま・スタートアップ支援拠点運営委員会」が運営する支援拠点「ももたろう・スタートアップカフェ」(通称ももスタ)が2019年、岡山駅前の「イコットニコット」内に設置された。昨年は岡山発の独立系ベンチャーキャピタル「瀬戸内Startups」が組成され、今年は岡山大学で起業部が発足するなど、スタートアップ・カルチャーはにわかに盛り上がりを見せている。

だが、まだまだ県内のスタートアップ企業の数は少なく、周辺産業も育っていない。特にスタートアップの専門家はその典型で、中四国全体まで範囲を広げてみても適切な専門家を見つけることは極めて困難だという。五十嵐弁護士は「そもそもスタートアップの法務や税務は、高度な専門的知識を必要とする分野であり、一般的な中小企業の法務、税務とは全く異なるということ自体、十分に認知されていないように思います。まずはスタートアップについての情報格差を埋めることが一番大事だと考えています」と説明する。

BFSでは情報提供に注力するため、10月末にウェブサイトを開設予定だ。11月3日〔木・祝〕には、オンライン参加もできるセミナー「Starting Startups」(仮)をももスタで開催する。

BFSのサポート内容

BFSは今年5月に活動を開始し、スタートアップ特有のニーズに対応できる弁護士、税理士、司法書士がシード(最初期)からイグジットまで、伴走型で支援している。優先株式等を用いた資金調達の実績はすでに3案件あり、専門的な手続きにも精通。資本政策、ストックオプションの発行、合同会社から株式会社への組織変更、スケールに対応できるバックオフィスの構築など、あらゆるスタートアップのニーズにワンストップで対応する。

BOOTH for Startups=岡山市北区問屋町11―106 BOOTH BLD.305、電086・242・6866、info@aiwa-okayama.tax

BOOTH for Startupsメンバー

愛和税理士法人
代表税理士 成本達哉さん(35)
約20種類のクラウドツールを巧みに活用するクラウド特化型税理士。バックオフィスの構築から運用までフルクラウドで運用する支援を得意としている。

 

 

 

弁護士法人アインザッツ
代表弁護士 五十嵐将志さん(36)
ファンド・スタートアップ法務専門。中四国初の独立系ベンチャーキャピタル「瀬戸内Startups」の設立に携わり、その法務・行政手続面の全てを担当した。

 

 

司法書士法人SORA
代表司法書士 柚木徹也さん(34)
会社登記や適切な株主総会運営支援のほか、相続や事業承継の問題にも取り組み、〔一社〕よるべの理事として、見守り支援や身元保証業務等も行う。