医師・元岡山県議会議員
小林孝一郎さん
能登半島地震から医療を考える
2025年03月20日号
地方自治の垣根超えた連携望む
こばやしこういちろう(47)
昨年1月の能登半島地震は、復旧や支援活動の遅れなどが話題になった。これは、半島という地形的要因で交通インフラに脆弱性があり、主要道路が寸断されたことで避難が遅れたり、復興のための支援が行き届かなかったりしたためだ。医療支援も発災直後は十分届かず、災害関連死は直接死を上回った。これは、過疎地や中山間地域など、わが国の他の地域でも起こりうることだと、元県議で臨床医でもある小林氏は警鐘を鳴らしている。
―能登半島地震でも、医療支援活動に参加したとか
「2018年の『平成30年7月豪雨』では、被災した真備町などへも日本医師会災害医療チーム(JMATおかやま)の一員として向かい、現場で支援活動を行いました。能登でも2月の第7次、3月の第15次医療支援活動で、JMATおかやまのチームリーダーとして現場の指揮を執りました」
「能登ではインフラの途絶や過疎集落を効率的にカバーするため、『広域避難』をわが国で初めて実施しました。のべ2万6千人が内陸部の施設やホテルなどに順次移送され、避難所での集団生活は回避できましたが、個室環境ということで医療支援が必要な人について情報共有の時間を要し、持病を持つ高齢者や透析が必要な患者のフォローが課題となりました。また、現行法では、災害派遣福祉チームの活動は避難所や福祉避難所に限定されるため、個人宅での垂直避難や車中避難をされている方には医療や福祉の手が届かない場合があります。全ての人が安全に避難でき、福祉の支援に速やかにつながる仕組みを構築しなければなりません」
―ほかに医療の課題は
「現在は医師が不足しており、このたびの働き方改革でさらに拍車がかかりました。過疎地域ほど高齢化率が高く、医療や福祉の需要も高くなっています。医療が行き届かなければ、過疎化はさらに進みます。岡山県内にも能登半島同様に児島半島があり、災害時に県内で孤立化する可能性がある集落は753に及びます。災害時のみならず、こうした地域に医療や介護、福祉が十分届くように包括支援の体制を作っておくことが急務です」
―今後の展望を
「どういう災害が起きやすいかは、地方によって違うので、情報共有化や避難経路の確保、役割分担などは各自治体単位で構築されています。ただ、広域で考えた時、避難が必要な地域とそうでない地域、時期によっては受け入れができる地域とできない地域があるので、各地の実情に合わせた避難方法や避難者の受け入れ体制など、地域を超えて整理しておく必要があります。そのためには、いざというときに連携できるよう国が主導し、各自治体が情報を共有し、計画が立てられるようにしておくべきです。地方自治の垣根はあるでしょうが、日本人が昔から大切にしてきた〝お互いさま〟の精神で、乗り越えられると信じています」
▽小林孝一郎事務所=岡山市北区下中野358-112、電086・238・0516
▽小林孝一郎=1977年8月、福山市生まれ。岡山大学医学部医学科卒業。岡山大学医学部第二内科入局。寺岡記念病院(福山市)などで内科医として勤務。2011年4月より岡山県議会議員(3期)。2021年10月衆院選に中国比例で出馬するも次点。医学博士、日本医師会認定産業医。自民党岡山県参議院第三支部長、岡山県医師連盟顧問。