福山駅前の再生事業
駅南口を広場にして憩いの場に
交通結節点としての役割は?
2025年04月20日号
市民からの声に耳を傾けるか
福山市は、福山駅周辺を市の「顔」として、また、備後圏域の玄関口として掲げ、市民や事業者、行政が目指す方向性を共有しようと2018年に「福山駅前再生ビジョン」を策定。駅周辺を公園化したプランを発表した。その後、有識者や関係者を集めたデザイン会議を繰り返しているが、枝広直幹市長は、「より多くの声を聞きたい」と今年3月末の基本計画発表は見送った。よりよい駅前について、2月4日にイチセトウチで催されたデザイン会議での様子をもとに、課題を整理してみたい。 (山田富夫)
福山駅前は、山陽新幹線開通(1975年)やマイカーの普及など都市交通の変化に対応しようと、2000年に「福山駅周辺整備推進協議会」を設置し、02年に「福山駅周辺整備の基本方針」を取りまとめた。南口にタクシープールやバス乗り場、地下送迎場を設ける今の形になったが、06年に福山城の遺構が見つかり、その保存・活用を図りつつ12年に完成した。
ところがその12年に駅前の商業施設CASPAが、13年には西側の福山ロッツも閉店。伏見町の再開発もままならぬままで、地価は下落する一方。駅前を何とかしなければという機運が高まり、交通の便を優先して作った駅前広場だったのが、5年を経過して、再整備計画が持ち上がった。
再整備計画は17年に始まり、18年にイメージ図が描かれ、19年に「福山駅周辺デザイン計画」が発表された。定期的に会議が重ねられ、21年からは有識者や交通事業者などでつくる官民組織「福山駅前広場協議会」が組織されて、「子育て世代からシニア世代まで様々な世代にとって暮らしやすく、かつ、若者や女性を惹きつけるエリアに再生」というテーマで再整備計画を検討してきた。
ウォーカブルで活性化狙う
「ウォーカブル」をキーワードに、再整備では駅前広場を「憩いの場」として全面的に開放し、バスターミナルを駅の南側から北側に移すほか、駅前交差点から国道2号までの歩道空間の活用などが盛り込まれた計画だったが、バス事業者や市民から懸念の声もあることから、今後更に検討を重ねていくという。
ウォーカブルとは、英語で「歩く(walk)」と「できる(able)」を組み合わせた造語で、「歩きやすい」「歩きたくなる」という意味。「ウォーカブルなまちづくり」とは、車中心から転換した、歩行や公共交通機関を主体としたまちづくりを指す取り組みをいう。1日約3万8千人が利用するという福山駅の、南口のおよそ1万4千㎡を「健康」や「環境」に配慮した広場とし、車の利用を減らして人の出会いや交流の機会を増やし、滞在時間を延ばすことで駅前の活性化を実現しようという計画だ。だがそれが、「交通結節点」としての駅前の役割との間に齟齬が生じている。
広場の外側に乗降場
「図」(※)にあるよう、広場があるため、バス・タクシー利用者はその外側で乗り降りすることになる。南側に集中していた路線バスやタクシーは、北口の現駐車場をロータリー化してターミナルにするのと、南側では「さんすてフクヤマ」前や「天満屋福山店」北側に乗降場を設ける計画だ。また、タクシーは現タクシー乗り場の前に突き出すように設けているほか、南側からのタクシーには、広場西側の駅前に降り口を設けるよう検討しているという。
一般車両は、北口のバス・タクシー用ロータリーの階上に一定時間無料で駐車できる送迎用駐車場を設ける計画になっている。南側では、2号線から駅方面への道はこれまで8車線だったが、片側2車線ずつの4車線に減り、そこにも送迎バス用の乗降場を設け、アイネス前の地下駐車場と、駅前の地下送迎場を結ぶなどしてマイカーでの送迎をしやすくするという。
県バス協会の担当者などからは、「朝夕の多客時は、様々な行き先のバスが1時間当たり50—60台も集う。そういう状況下でスムーズな運用はできないし、乗客の混乱は避けられない。また、現在の南側から北側に移動することで、往復1・2㎞の走行距離が延びる。1日640台のバスで計算すると広島まで2往復した距離になる上、燃料費も年間で500万円の増額になる。人件費もあわせると4500万円に上るが、費用も燃料もドライバーのストレスも増えるだけ。車いすの乗降にはスロープが必要だが、天満屋北側の通路でそのスペースが確保できるのか。できることならば伏見町の再開発を俎上に載せてほしいが、難しいようなら南の広場を縮小してターミナルをきちんと設けることはどうか」との提案もあった。
※上図は福山市のHP内「福山駅周辺デザイン計画の中で、『交通施設の配置(たたき台)』として示された駅前の図」
市民からの質問書も
市民からの質問書が3月31日、福山市役所に提出された=写真。
「福山駅北口広場を守る会」(川﨑保孝代表)は、さんすて福山の南側道路は1日3500台の交通量があるが、規制することで市民生活・経済活動を阻害することになる上、送迎バスの乗降場にすることで(一般車両は規制されていてもタクシーやほかのバスが集うため)交通渋滞や事故の危険性が増えるのでは?▽今計画は南側に広場を設けるために、駅北口に近接した形でバスやタクシーの乗降場を設けなければならないが、そのためにさんすて福山の建物を一部取り壊さなければならない。その交渉自体JR西日本と行っておらず、断られた段階で計画の根幹が崩れてしまう可能性は?▽北口に計画する予定の「立体駐車場上階の一般送迎場」では7台分としているが、実際にはさらに多くの車が待機することもあり、交通渋滞を引き起こす可能性は?▽福山城の威容を見上げることができる今の景観を損なうのでは? など指摘は多い。同会では、計画について更に広く市民の意見を聞くために、住民投票を行うべきと主張している。今後はビラ配りや署名活動なども積極的に行っていく予定だという。
まとめ
デザイン会議内である委員が話していたように、同事業は建設まで10年以上かかるが、10年後の駅前がどうなっているかきちんと想定できているのだろうか。実際の利用者の利便性ではなく、「広場」ありきで計画を進めてはいないだろうか。「50年先、100年先を考えたデザイン」と言いながら、現在の駅前広場は25年前に計画して、完成して6―7年で全く違うプランが持ち上がっている。このまま進んでしまうのが不安で仕方がない。福山市民に駅前を意識してもらい、「ウォーカブル」を実現するためにも、住民投票は良い案かもしれない。