衰退する尾道の漁業(4)
望まれる将来への振興策
市が新たな施策打ち出す

2015年02月20日号

衰退する尾道の漁業
 尾道で漁業の衰退がいわれて久しい。こうした状況の中で、尾道市(平谷祐宏市長)も手をこまねいているわけでない。5年前に地元水産業の振興策を打ち出し、このほどそれを補うべく新たな施策を盛り込んだ。とはいえ、今日衰退は様々な要因が折り重なってのことであり、並大抵の振興策ではおぼつかないほど深刻な状況に至っている。漁業従事者の高齢化と後継者の確保難、漁場の荒廃、魚価の低迷などほかにも若い世帯での魚離れといった外部的な要因がある。これらを大局的にケアしていく施策でなければ再生は難しい。(西亀 悟)

 尾道の漁業が栄えたのは生息する魚類が豊富で、それに伴って多様な漁法が継承されてきことが背景にある。
 代表的なものは釣り、刺し網、小型底曳網等で、かつて手漕ぎの船で漁場に出ていた漁師は魚群探知機などを備えた船に乗り換え今日に至っている。
 その漁法(漁業種)は時代ともに変遷している。
 広島農林水産統計によると2008年から13年の5年間に船曳き網漁は増えているものの、小型底曳き網を用いたものは64%、はえ縄は62・5%、刺し網は82・1%、タコ壺などその他に属するものは81%と減少している。
 また、漁種別漁獲量は、2012年では釣り(ひき縄釣など)が392tと最も多く、次いで刺し網104t、船曳き網103t、小型底曳き網98t、その他59tで、これに採貝・採藻38t、はえ縄15tの順と続いている。 
 このうち採貝ではアサリ、はえ縄はアナゴ、小型底曳き網ではエビ、カニ、シャコなどの甲殻類とカレイ、コウイカが獲れる。また、刺し網ではマダイ、ホゴ、アコウなどが獲れ、今回発表した「水産振興ビジョン」(以下、振興ビジョンと略)をまとめた市の水産振興係では「いずれも尾道らしい水産物だが、今日の漁法を継承する人がこのの減少を続けると、新鮮な地魚が手に入にくくなる」と危惧している。 
 実際、こうした魚の水揚げ量は減少の一途をたどり、89年に1400tあったのが08年には1050t程度に減り、12年には600t前後と千tを大幅に割った。
 魚類別ではカレイ、アナゴ、チヌ、エビが顕著に減少し、タチウオ、スズキなどを含めた全ての魚種で漸減傾向にある。 
 地元で水揚げされる魚が減ると、比例して価格は相応に高い値段が付くはずだが、流通構造の変化もあって、以前のような値段が付きにくくなっている。

県外産による影響
 かつて食卓で親しまれてきた地魚は「送り」と呼ばれる、比較的安価な県外産の魚に変わりつつある。 
 以前は地域の鮮魚店や行商人が地元の漁港で水揚げされる魚を売りさばいていた。しかし、大手スーパーなどチェーン店が進出してくるとこれらは本社あるいは物流センターの近くにある魚市場で大量に仕入れたり、境港など規模の大きい漁港に出掛けて船一隻分の魚をまとめ買いして、地方の各店に送られている。
 一方で、地元の港で陸揚げされた魚は市場に持ち込まれ、威勢のよいセリによって値が決められていたが、近年はその光景も薄れ、漁師と仲買人が売買する相対取引が増えている。 
 こうした状況も相まって、地元の漁師が獲る魚の相場は抑えられてきたようにもみえる。 
 「振興ビジョン」で示されている主要魚種の漁価推移をみると、08年度から13年度の間にマダコやイカなど単価が上がった魚種もあるが、チヌが40・5%、アコウで34・2%、スズキやマダイについても30%近く下落している。  チヌやマダイは漁獲量が多く、本来なら「稼ぎ頭」となってもらいたいこうした魚種の価格が低迷すると、漁業収入を大きく減少させることになる。
 そして、価格の低迷については、このまちに暮らす人々の食生活の変化を考える視点も要るだろう。
 たとえば、食卓に魚のメニューが加えられることが少なくなっている現状があり、それは魚の調理法が分からないという若い世代の魚離れが背景にある一方で、スーパーに行けば多様な食材が溢れ、特に魚を求めなくても不自由はしない。このように需要が減っていることも、価格の低迷につながっているようだ。
 こうした状況を「振興ビジョン」では次のようにまとめている。
 尾道市では地元産の水産物を取り扱う鮮魚店が減少を続けている。これに代わって水産物販売の主流となったスーパーマーケットにおいては、地元の漁業者が獲る少量多品種、季節ごとに種類や供給量が異なる品物は、取り扱いにくい商品とされている。
 こうした背景の中で地域性や季節感のある多種多様な旬の魚が、市民から遠い存在になりつつあると同時に、水産物の出荷価格が低水準にとどまり、漁業者の経営を圧迫している。
 打開策としては地物の旬の魚を市民に届け、漁業者が適正な価格で水産物を販売できる仕組みづくりが必要となってくる。
 その試みの一つとして、地元産品の直売所「ええじゃん尾道店」(東尾道)が11年にリニューアルオープンしたのに合わせて、市内6漁協が出店契約を結び、漁協の販売事業として鮮魚等の販売を始めた。ここでは新鮮でおいしい地魚を買い求めることができるため、売上も順調に伸びており、地産地消の推進及び漁業者の所得向上への期待が高まりつつある。
地産地消の推進
 こうした直売所を活用するのは昨今の潮流になっており、隣の町にある「道の駅・アリストぬまくま」(福山市沼隈町常石)では地元の漁師がその日に獲った魚を持ち込み、自分たちで値段を決めて販売している。 
 96年にオープンしたこの道の駅は99年に大幅な改装をして「自由市場」と呼ばれるコーナーを充実させた。特産の野菜や花に加え、道の駅としては珍しく鮮魚の品ぞろえを充実させているのが特徴で、全体の年間売り上げ約3億円のうち鮮魚が9千万円余を占めている。
 この市場に参加している漁師は地元の漁協に属する約40人で、これまで市場やスーパーで引き取ってもらえなかった雑魚もここでは売ることがでる。また、消費者としては数時間前まで海で泳いでいた活きの良い魚を直販価格で買うことができるのが魅力となっている。
 施設の責任者は「開店当初、鮮魚は年間2千万円程度にとどまっていたが、口コミで客が増え、現在はその5倍を売り上げるようになった」と、今後の展開に手ごたえを感じている。
 尾道市ではこのほか「尾道季節の地魚の店連絡協議会」を設置して、尾道の地魚を扱っている店をPRする策を打ち出した。
 この協議会は市内の飲食店、漁協、観光協会などで構成され、地魚を提供する店などの情報を市民や観光客へホームページ、パンフレットなどを通じて紹介し、公募審査によってその対象となる飲食店、旅館など38店を「尾道季節の地魚の店」として認定した。 ###1行空ける##
 衰退する地元の漁業を蘇らせるには、こうして流通体系の再構築を図ること以外に、漁場の環境整備も大きなテーマとなっており、次回はそこに踏み込んだ内容でリポートする予定です。
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