仕立屋のワードローブ
ダブルのズボン裾

2015年02月20日号

wrdrob0220 ズボンの裾を外側に折り返した仕立て方を和製英語でダブルと呼んでいます。ファッション誌などにはその始まりとして以下のエピソードがよく紹介されています。20世紀初頭にとある英国紳士がアメリカでパーティに出席したときのこと、突然の雨に遭遇した彼はズボンの裾を濡らすまいとその場で折り返して着用しました。これを見たアメリカ人が最新の英国流ファッションだと思い込み、一斉にマネをしたというのです。
 この逸話も実景ではあったのでしょうが、その背景には「おしゃれの極意は着崩すこと」というファッション感が垣間見えます。かつての洋服はすべてオーダーメイドだったのですから、ズボンの裾は着る方の股下寸法に合わせていわゆるシングルに上げていました。シングルが本来の姿であり、今でもタキシードなどの礼服は必ずシングルにします。ダブルはにわか雨をきっかけとして流行した着崩しスタイルです。ワイシャツの袖を捲るのと同じ感覚で、活動的なイメージを演出するのでビジネスウエアはダブル、と決めている方もいらっしゃいます。裾に重みがついてズボンのラインが綺麗に見えるのもメリット。折り返し幅は4㎝が一般的ですが、3・5㎝幅にすれば軽快に4・5㎝幅にすれば重厚な感覚になります。