映画大好き
「孤狼の血」

2018年06月01日号

暴力にカタルシスを覚えるヤクザ映画

 「孤狼の血」は昭和末期の広島を舞台に役所広司演ずる無頼派刑事と暴力団との闘いを描くバイオレンス映画だ。白石和彌監督は最初から最後までバラエティに富んだ暴力シーンを配置して途切れることのない緊張感を演出する。実録風に見えながら登場するのは刑事とヤクザばかり。一般市民である観客はコロッセオで死闘を繰り広げる戦闘士を眺めるように、血まみれの抗争を安全な高所から鑑賞して楽しめばよいのだ。
 モノクロ映画かと思えるほどコントラストを強調した画面にピエール瀧、竹野内豊、石橋蓮司、江口洋介など昭和生まれのベテラン俳優たちが次々とアップで映し出され、それぞれの存在感を見せつける。一回しか出番がない新聞記者役にさえ中村獅童が起用され、思い入れたっぷりの顔芸を披露してくれる。主人公とコンビを組む若手刑事・松坂桃季(29)の熱演が後半の見せ場だ。
 闘いの構図は複雑だ。主人公は、いかに取り締まろうとも社会からヤクザが消滅することはないと考えている。被害を最小限に抑えることを図り、そのためには違法捜査も辞さない。あらゆる社会問題はつまるところ永久に解決しないことを知っている観客も主人公に共感し、暴力によってかりそめの決着がつくことにカタルシスを覚える。だからこそヤクザ映画は今も昔も作られ続けるのだ。