女性が活躍する社会を考える
三原市フェムテックへの取り組み

2022年04月20日号

ユニ・チャームの研修会

三原市(岡田吉弘市長)は2021年度、男性を含む職員を対象に、ユニ・チャーム㈱が取り組んでいる〝女性の生理について考える研修会〟を行った。こうした画期的な研修やフェムテックへの取り組みを女性活躍推進のスタートアップと位置付ける同市を取材した。(岩田典子)

経済産業省の取組

経済産業省が20年度に報告したフェムテック産業実態調査によると、多くの働く女性が月経、妊娠、出産、更年期などに起こる健康問題を抱えながら働き続けることに悩みや課題を感じているという。フェムテックとはFemale(女性)とTechnology(テクノロジー)をかけあわせた造語で、女性が抱える健康の課題をテクノロジーで解決できる商品(製品)やサービスを指す。

女性の健康が社会課題として認識され始めた理由として、新型コロナウイルスがもたらした社会の「新常態」がある。働き方や暮らし方にまつわる課題を解決し、経済社会のあり方をより良く変革することが求められている。その重要なアプローチのひとつが、多様な個人のウェルビーイング(本質的な幸福)の実現だ。

経産省はこれまで月経に伴う症状や不妊治療、更年期に伴う症状によって離職や昇進辞退、勤務形態の変更を余儀なくされていた女性が、フェムテック製品やサービスを利用し、仕事との両立を果たすことで得られる給与などの経済効果は、25年時点で年間約2兆円と推計。21年度に企業の実証実験を支援する新規事業を立ち上げ、フェムテック産業の振興に乗り出した。この事業により、女性のライフプランとキャリアプランの両立を可能にし、ウェルビーイングの実現を図る方針だ。それには、フェムテック事業者と自治体や医療機関、他企業との連携創出が重要で、産官学の垣根を超えた連携を加速させるという。

三原市の取り組み

岡田吉弘市長

岡田市長は「女性の活躍推進には様々な課題がありますが、フェムテックの取り組みに着目し、いち早く取り入れることで解決を図ろうと考えています。女性の課題は、組織や社会全体で考えていかなければならない」と語る。

三原市は、ユニ・チャーム㈱(東京都)との勉強会(11月18日開催)=写真下=を開いた。経営企画課、地域企画課、保健福祉課、児童保育課、子育て支援課、商工振興課の管理職などが参加し、女性の生理について学ぶワークショップで、その様子はNHKの番組「ラウンドちゅうごく」で紹介された。同社は生理にまつわる知識向上と男女間のみならず女性間の相互理解を促進するため、20年から生理や生理ケアの正しい知識、生理ケアの選択肢をより多くの人に知ってもらう活動を行っている。

岡田市長は「地方に行けば行くほど、ジェンダーギャップ、昔ながらの固定観念が根強く残っています。行政から発信することが、これまで話されてこなかった内容について話し合うきっかけとなり、コミュニケーションのハードルを下げると考えています」と話す。

また、「LINE」を使い、不妊治療などの悩みに専門家が個別に回答するサービスを手掛ける㈱ファミワン(東京都)と連携し、市職員や企業の管理職らを対象とした「妊活支援セミナー」を21年12月11日と13日にオンラインで開いた。当事者や、住民をサポートする自治体職員らに治療の基礎知識などを学んでもらう内容だ。参加者から「相談しやすい関係づくりに向けて、まずは知ることに取り組むことができた」、「妊活を知ることが自分の為にもなるし、周囲への理解にもつながる」などの感想があったという。

三原市の抱える課題

〔公財〕中国地域創造研究センターが作成した三原市及び近隣市町村の「出生構造レーダーチャート」の分析によると、第1子の出生率が全国平均よりも低く、不妊など何らかの課題に悩む夫婦が一定数いるのではないかと市は推測している。そこで、20年度末から、組織を横断し、課題解決について考える「未来ビジョン検討会議」を立ち上げ、子育て支援と女性活躍について検討を始めた。

主な課題を、第1子有配偶出生率の向上▽30代女性の有配偶率の向上▽25―39歳の第1子を持つことに対する支援とし、これらは第2子以降への支援にもつながると捉えている。取組の方向性として、三原市内で家庭を育む取組を進めることや、結婚した夫婦の第1子誕生を祝う場所が三原市になっていることを目指す。

岡田市長は「アンケートの結果から、結婚や出産を機に会社を辞めた女性の多くが『もう一度、就職したい、社会にでたい』と考えていることがわかっています。企業とのマッチングをはかり、女性の社会参画を進めたい。また、子育て支援を充実させることにより、働きやすい環境を整備していきたい。月に1度行っている『みらいトーク』で様々な立場の市民との対話から寄せられた声を活かし、女性活躍と子育て支援を組み合わせた政策立案をしてきました」と説明する。

22年度は、「子育て支援・女性活躍」に7・1億円の予算を組んだ。婚活・母子保健施策では、出会いから結婚、妊娠、出産、産後ケアまで、一貫したサポートを行う。また、妊活サポートとして、LINEを使った個別相談や情報提供も開始する。女性活躍施策として、就活準備のためのママ向けのスクールや企業向け女性人材活躍セミナーなどにより、子育てなどと仕事の両立を応援するほか、女性活躍推進アドバイザーを企業に派遣して啓発を行い、女性支援に繋げていく方針だ。

岡田市長は「本当に困っている人ほど、声を上げられない。その声をすくい上げ、市政に繋げていきたい。課題解決には時間がかかると思うが、着実に取り組んでいきます」と展望を語る。

記者の視点

「新常態」を受け入れ、新たな価値観に基づく社会を作り出すことが期待される中、女性が社会で活躍するために、これまで以上に男女間や女性間の相互理解が必要となっている。三原市の取り組みを紹介することで、多様性のある社会のあり方を考えるきっかけになればと願う。