万里の長城で四一連隊兵士遺骨
大田市議が遺族の特定に協力
NHK(BS、地上波)で放映

2022年09月01日号

大田祐介市議、四一連隊碑の前で

福山市では、福山城築城400年を迎え、8月からさまざまな行事が各所で開かれている。同じ時期に福山の礎を築いたと言われている「歩兵第四一連隊」の兵士の遺骨が、中国・万里の長城の一角で見つかったといった内容の番組がNHK(BS、地上波)で放送された。番組では、四一連隊研究の第一人者・大田祐介福山市議(福山市緑町2—13、電084・932・7855)が、名簿や兵士の日記から、遺骨の兵士の名前を特定する姿が映し出され、福山市内に住む遺族の八田健さん、裕重さん親子が出演していた。現在の福山市の発展は、四一連隊の兵士の犠牲の上に成り立っている。歴史を紐解いてみた。   (稲毛一郎)

四一連隊は広島で創設され1908年(明治41)、福山に転営した。
当時の福山市は人口約1万8千人。工業は発達しておらず、商業は旧城下町の需要を満たすだけの小規模なものだった。連隊の年間経費、軍人の給料の大部分が福山で使われ、街に、大いに繁栄をもたらしたのである。

「戦前の平和な時代、四一連隊は備後の郷土部隊として市民から愛され、軍旗祭や招魂祭という兵営の一般開放には多くの市民が詰めかけました。1919(大正8)年の芦田川の氾濫による大水害においては現代の自衛隊の災害復旧活動と同様の働きをしている。これらの四一連隊の貢献を忘れてはならない」(大田市議)。

さらに大田市議は、福山の発展を語るうえで3つの大きな転機があった①水野勝成の入封②歩兵第四一連隊の誘致③日本鋼管の誘致─と指摘する。

支那事変勃発
四一連隊の動員

1937(昭和12)年7月、盧溝橋事件とともに発生した支那事変で四一連隊が動員される。

兵営から福山駅までの沿道には人垣ができ、日の丸を手に出征兵士を見送った。

兵士らは宇品から釜山に船で渡り、鉄道で万里の長城を目指した。

数百年前に建造された万里の長城が日中の攻防戦の舞台になり、長城の望楼に立てこもる中国軍に対して四一連隊は「決死隊」を編成して突っ込み、双方に多くの戦死者が出たという。

数年前、その際の戦死者の遺骨が現地に住む戦史研究家・楊国慶さんの手により発掘される。大田市議の調査により鞆町の八田保命酒店の八田健さんの父であることがわかり、NHK「国際報道2022」や「おはよう日本」で放送された。

「現状の日中関係では遺骨の返還は難しく、DNA鑑定どころか遺族による慰霊祭さえ現地で行うことは困難な状況です。中国を侵略したとする日本兵の遺骨を掘った楊さんへの中国当局の風当たりも強い。しかし、兵士らはお互いが国のためと信じて戦い、それぞれの魂は祖国に帰るべきという楊さんの気持ちに応えました」(大田市議)。

戦死者名簿や生還者の手記等を手掛かりに遺骨の身元調査を行い、鞆の八田さんにたどり着いた。番組内でオンライン中継が実現し、日中関係が一歩前進したと楊さんも、大田市議も、八田ファミリーも喜んでいる。

四一連隊樋口連隊長の孫
樋口隆一さんの講演会

講演する樋口隆一明治学院大学名誉教授

大田市議は四一連隊の研究だけでなく、市民に連隊のことを知ってほしいと、樋口季一郎連隊長の孫、樋口隆一・明治学院大学名誉教授を講師に招き、樋口連隊長の活躍や当時の社会状況を紹介する講演会を開いている。

8月20日に備後護国神社で開かれた講演会「祖父の北海道防衛とウクライナ情勢」では、樋口連隊長の3女・橋本不二子さん(93)と、孫で札幌市議のしのだ江里子さんも駆けつけた。

樋口季一郎は終戦後のソ連による樺太や千島列島の侵攻に対して断固反撃命令を下し、スターリンの北海道占領の野望を打ち砕いた。その際多くの民間人が犠牲になり、軍人はシベリアに抑留されたが、ソ連の手口は現在のロシアによるウクライナ侵攻にそっくりだという。

講演会では、樋口季一郎ワルシャワ公使館付き武官時代(少佐)に、パーティーでワルツを踊り、女性にもてたこと、アリューシャン・キスカ島で約5000人の兵士を救出したこと、スターリーンは北海道の半分を占領しようとしていたこと、戦後ソ連が行ったシベリア抑留の悲惨な状況などを、独自の視点で紹介した。

さらに、樋口季一郎はハルピン特務機関長時代に、満州国境に多数のユダヤ人がいて入国拒否にあっていたが入国を許可し助けた。そのことがイスラエルで評価され、同地に招かれ「ユダヤ人難民救済した樋口季一郎の孫」として顕彰されたことなどを話した。

橋本不二子さんは、四一連隊長官舎だった福寿会館洋館(同市丸の内1─8─9)を訪れ、現在はアサヒタクシーが運営する「喫茶メゾン・アンベ」となっているが当時のままの姿に驚き、軍人として父が苦悩した姿を回想していた。

より詳しく四一連隊の歴史を知るには大田市議の著書「永遠の四一・歩兵第四一連隊の足跡を訪ねて」福山健康舎(4100円)を参照。