問われる臨空都市
三原市の在り方は?

2016年03月10日号

問われる臨空都市三原の在り方は?

 空港と鉄道の駅舎、そして港湾を擁する三原市は空・陸・海の交通の要衝として恵まれた環境にある。しかしそれを経済、文化、観光の発展に活かし切っているとは言い難く「宝の持ち腐れ」となっている感が否めない。そのポテンシャルをさらに高めていくにはどのような施策が望まれているのかーー。それを探る一歩として、広島空港に照準を定めてリポートを続けてきた。その途上にあるこの時期、広島県庁の一室で有識者による会議が開かれ、特筆したいと思わせる発言が相次いだ。前号に次いで、その「広島県空港振興協議会」で語られた発言の内容をリポートする。西亀 悟
 1993年、本郷町の用倉地区に開港した広島空港は三原から車で30分、尾道から40分の距離に在りながら「臨空都市」としての実感が薄く「近くて遠い存在」と受け止めている住民が少なくない。
記者(筆者)もこの空港について「知っている」ようで「知らない」ことが多く、いつか詳しく取材してリポートしたいと考えていた。
折しも「インバウンド(訪日観光客)の受け入れ」や「空港の民営化」が頻繁に報じられるようになり「今が書き頃」と考え、連載を続けてきた。
ここにきて「広島県空港振興協議会・活性化部会」の会合が開かれ、その内容は前号(3月1日号)でリポートした通りで「広島空港の将来像」や「今後の運営の在り方」について発言が相次いだ。
この部会は広島商工会議所の廣田 亨副会頭が会長を務め、福山商工会議所の林 克士会頭、広島経済同友会の森信秀樹代表幹事のほか広島県バス協会、日本旅行業協会、広島国際航空貨物運送協会の会長ら26人で構成されている。
 各委員の発言や、この会議で示されたデータを記者なりに収捨選択整理して、適宜注釈を添えてリポートする。
ネットワークの充実
 前号では「空港アクセスの改善」についての発言に主眼を置いて「道路ネットワークの整備・拡充」「軌道系アクセス・JRとの連携」「リムジンバスの在り方」「駐車場の在り方」等について記した。
今回は「ネットワークの更なる充実」についての内容が主題となっている。
【国内線の拠点性確保】広島空港は今後MRJなど小型機材による国内航空路線の拠点となり、中国地方全域へのハブ&スポーク機能の潜在性を高めていきたい※MRJ(三菱リージョナルジェット)=三菱航空機㈱が主体となって開発・製造が進められている小型旅客機(座席70ー90席)で15年11月に初飛行(試験飛行)を成功させ注目を集めた※ハブ&スポーク機能=拠点空港から自転車の車輪のスポークのように各飛行場と繋がるネットワーク。
【国際線新規路線誘致】既存航空会社とLCC(格安航空)に関わらず、広島空港に離発着する新規路線の拡大は必須となる▽観光、経済活動の両方の観点から、需要が高いバンコク、シンガポールなどへの路線誘致が望まれる。
【アジアとの距離感】国際線においてはアジアとの距離感の優位性に期待が持てるが、現状の国際線比率(10%)を高めるKPI(重要業績評価指標)をこの空港にも設定するかどうかが議論となる※KPI=組織や事業、業務の目標の達成度合いを計る定量的な指標。
【新たな航空サービス】ビジネスジェット(数人から十数人程度を定員とする小型航空機)導入の可能性を検討し、ビジネスマンの少人数による移動のニーズに応える。
【空港運用時間の拡大】LCC(格安航空)の活用やインバウンド(訪日観光客)取込みのためには運用時間の拡大という要望が必ず出てくると思うが、騒音など地元対策への慎重な対応が必要である。
 93年に開港した広島空港は、利用客の80%を占めるドル箱路線「東京便」で競合するJR新幹線とのシェア争いで差を開けられ、路線の開拓、廃止を繰り返すなど安定的な運営ができているとは言い難い。これまでの経緯と将来の課題について、以下の意見が交わされた。
【過去の成長モデル】
 広島空港は、主力路線として全国の国内線路線で旅客数が第7位(平成26年度)の羽田線を有している▽国際線はアウトバウンド(海外への旅行者)需要を強みとして全国の空港で第8位の利用者数を誇っている。
【近年の動向・課題】
 主力路線である羽田線万う東京便)の対新幹線の競争力低下している▽アウトバウンド利用を中心とした国際線が伸び悩んでいる▽訪日需要が拡大する中、インバウンドの取込みが不足しており、県内への外国人観光客の数が限定的である▽国際線においてはネットワーク・便数の豊富な近隣大規模空港に利用客を奪われている▽空港へのアクセスは山陽自動車道など道路系のアクセス手段に依存し、渋滞による定時性の確保に課題がある▽関西などハブ空港への貨物集約化の流れの中で、貨物取扱量がピーク時の4分の1に減少している。
【将来のリスク】
 将来の人口減やリニア中央新幹線の開通による国内航空線利用の減少リスクがある▽インバウンドの取り込みにおいて、近隣大規模空港への利用客流出が加速する懸念がある。
【生かすべき強み・機会】
 広島には首都圏との旺盛な交流人口の高まりがある▽底堅いアウトバウンド需要を大切にしていきたい▽成長著しいアジアに近い地理的優位性をアピールする▽LCC(格安航空)による新規需要として成田線・香港線などの就航が望まれる▽進みつつある観光分野の広域連携の取り組みの中でも、特に加速している「瀬戸内」のブランド化の取り組みを広島空港の利用客増に繋げる▽2014年度に形成された県境を越える井桁状の高速道路ネットワークによるアクセス環境をさらに向上させる。
広島空港の将来像
【基本理念】
 中四国地方の拠点空港として多様なネットワークを提供することで圏域内外のビジネス、観光等の交流を拡大する。さらに圏内の交流、連携基盤として機能する空港を実現する。
【担うべき役割】
〔グローバルゲートウェイ〕瀬戸内のブランド化をはじめとして広域的な観光連携の取り組みが進む中、地域と連携して、拡大する訪日需要を取り込む中四国地方のインバウンド拠点としての役割を担う。
〔多様なニーズに応える空港〕航空サービスが多様化する中、LCCや地方間路線、ビジネスジェットなどの新たな利用者ニーズにも対応しうるバリエーション豊かな移動手段を提供する。
〔首都圏との交流基盤〕首都圏と地域を多頻度で結び、ビジネス需要やハブ空港へのアクセス需要など首都圏との相互交流や県民の利便性を将来に渡って支える基盤としての役割がある。
〔交通結節点〕他の様々な交通モードと円滑に連接し、シームレスな移動を実現する利便性の高い交通結節点としての役割が求められている。
〔地域の魅力の発信基地〕地域ブランドの輸出や、空港を媒介に地域の魅力作りに向けた様々な主体の連携を誘引するプラットフォームとして、地域の魅力発信に貢献する。
〔緊急・防災機能〕大規模災害等により陸上交通が寸断された場合など、緊急時に対応できる航空輸送機能及び避難機能を有する緊急・防災拠点としての役割を担う。
実現への取り組み
 【ネットワークの更なる充実】インバウンドの取込み強化
▽ハブ空港とのネットワークを活用した乗継ぎ需要の拡大
▽インバウンドダイヤの増便や東・東南アジアを中心とした新規路線の誘致。
〔LCCを活用した需要拡大〕首都圏路線の強化、近距離国際線LCCの誘致▽地方拠点化を進めつつあるLCCの誘致。
〔新たな航空ビジネスの活用〕チャーター便の活発化、リージョナルジェットによる地方間路線の新規誘致▽空港間連携による相互利用促進
▽ビジネスジェットの可能性の検討(MICE誘致等) 〔新規需要を見据えた空港機能強化〕駐機スポット、待合施設の拡充など路線拡充を見据えた施設を整備する。
【空港アクセスの改善】速達性・定時性の強化▽広島高速5号線の早期整備▽白市ルートの強化▽新たな軌道系アクセスの整備検討。
〔駐車場・レンタカーの利便性向上〕駐車場料金の見直し
▽レンタカーサービスの向上、カーシェアリングの導入。
〔インバウンド向けサービス〕リムジンバスの乗降場所の多数化や、ホテルの訪日外国人の受け入れ態勢の強化。さらに交通系ICカードの導入やクレジットカード利用への対応を促進する▽広島空港利用者向けにJRレールパスの利便性を向上させる▽空港起点の観光バスサービスの導入検討する。
〔二次交通のネットワーク化〕航空ダイヤとの接続の改善など公共交通機関との連携を強化する。
〔圏域広域化への対応〕瀬戸内エリア、北部・山陰エリアなどへアクセスするバスのネットワークを拡充する▽空港と高速道路網を結ぶ広域交通ネットワーク(道路)を構築する。
【圏域の拡大】県外旅行会社との連携を深め、利用促進活動の広域的な展開を図る▽広域的な観光連携による周遊型・滞在型観光を促進するために、広域観光周遊ルートを念頭においた広島空港利用インバウンド商品の拡大を図る。
【国内貨物ハブ拠点の活用】
新たな国内貨物ハブ拠点(羽田、那覇)を活用した貨物需要を拡大する。
【空港の魅力づくり】
空港及び周辺エリア全体のグランドデザインの構築と共有▽ターミナルビルの集客施設としての魅力向上・周辺施設との連携強化▽積極的な情報発信(空港発の話題づくり)▽周辺地域との連携・共生
【緊急・防災機能】
 広島空港における空港経営を考え語る論点は、国内ハブ空港と地方空港の二極化や空港間競争の激化(路線の誘致合戦)により埋没する怖れがあるという危機意識を待つことで、次回はそれを前提とした関係機関の取り組みについてリポートする予定です。