万里子の首都圏リポート⑪
石川貴志さん
KIMIKOさん

2018年05月10日号

首都圏の副業ワーカーと
地方の企業・行政を結びたい
「複業モデル地区」構想
働き方をリデザインする
 「働き方」をテーマに、イベントや勉強会を開催する一般社団法人Work Design Lab(ワークデザインラボ)代表理事の石川貴志(39)さんは、福山市出身で東京の出版書籍流通企業に勤める会社員。NPO・社会起業家に対して投資協業を行う「SVP東京」のパートナーや、公益財団法人「ひろしま産業振興機構」の創業サポーターを務めるなど数多くの社外活動を行い、自らをモデルケースとして「個人の副業をどう企業や地域に還元していけるか」を日々探求。「働き方をリデザインする活動が、私のライフワーク」と話す。
 石川さんが、個人と組織のより良い関係性を社会化する活動を始めたきっかけは二つ。「父親の会社の倒産」と「わが子の誕生」だ。「高2の時に父の会社が倒産した。当時は何も手伝えず、地方の中小企業を元気にしたいという思いを抱えてきた。一方、結婚して子どもが生まれ、社会の様々な課題への関心が高まった」。
 2016年10月、「働き方改革実現推進室」が内閣官房に設置された。政府は、柔軟な働き方の一環として兼業・副業の普及促進を図り、今年1月にはモデル就業規則を改定。労働者の遵守事項の「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定を削除し、副業・兼業について規定を新設した。このような時運の元、石川さんは「これから個人の兼業・副業はもっと進み、個人が法人化していくだろう」と言う。個人を一企業に縛り付ける従来の日本型雇用システムを固持するのは、もう時代に合わない。「今までは、企業の中で労働力が格納されている状態だった。柔軟な働き方を実現させるためには、労働力、つまり働き手の時間を社会全体でシェアしていくことが大切」。実は、課題解決の戦略マネージャーとして日本で初めて「副業人材」を雇用(18年3月~・任期1年)している市が、石川さんの故郷の福山市である。市の公募に395人が応募し、5人が採用された。
 石川さんは副業を「複業」と表現する。「今までは、企業ベースで働き方が語られることが多かったので“副業”と呼ばれていたが、個人中心に働き方を見ると仕事はパラレル(並列)だから“複業”なんですよ」と、その考え方を示す。同世代の人々と交流する中で、「自分の出身地域に関わりたい」と思っている若い人が多いことにも気付いた。自身が委員をしていた「福山駅前再生協議会」(今年3月終了)では、「首都圏の副業ワーカーと地方の中小企業を結び付けられないか」と考え、人材リソースを地域シェアリングする「複業モデル地区」構想を披露した。
 「複業を突き詰めると“家族”に帰着する。ワークモビリティが高まる・リビングがオフィス化するなど、働き方が変わると暮らし方も変わり、ライフスタイルもクリエイティブになっていく」。したがって「“家族”という経営チームのチームアップが必須」。“複業ワーカー”として時代の最先端を行く石川さんは、16年11月には内閣府主催のイベントにゲストで登壇。17年5月には経済産業省(中小企業庁)の兼業・副業の事例で紹介された。彼の周りで今後どんなムーブメントが起きるのか、期待を込めて見守りたい。

独自メソッドを開発
ポスチュアウォーキング
~心身に美と健康を提供~
 KIMIKOさん(本名・鈴木規美子56)は岡山市出身。結婚をきっかけに関東へ。すぐに子どもが出来たが産後太りに落ち込んだ。「自分の体が嫌いで自信が持てず、何とかしたかったが、何をして良いか分からなかった」。嫁ぎ先は裕福で何不自由なく生活していたが、「入れ物に“自分”という中身が合っていないような違和感とむなしさ」を抱えていた。転機は35歳の時に訪れた。モデルが講師のウォーキングレッスンのチラシを目にし、申し込んだ。「鏡の中で自分だけを見て歩ける時間」はとても幸せで貴重だった。レッスンには2年間通ったが、そのうちもの足りなさを感じるようになった。
 そんな折、講師から代行を頼まれた。レッスンを受けた生徒からの評判も上々で、さらに友人から「教えてほしい」と言われたのを契機に2000年に独立。自らがレッスンを行うこととなった。体を知るために医学書を読みあさり、動物の動きを観察して美しく見えるヒントを得た。そういう試行錯誤の中で、ウォーキングの独自メソッド「ポスチュアウォーキング」を編み出した。06年には一般社団法人ポスチュアウォーキング協会を立ち上げた。「ポスチュアウォーキングは、外から何か別のものを持ってくるのではなく、“体”という元々自分が持っているものをコントロールして美しくなれるのが魅力。レッスンで小さい達成感を積み重ねる過程で、自分に自信が付いて自己肯定感が培われ、自分を好きになれる」とKIMIKOさんは目を輝かせる。「正しいものは真っすぐで歪みがない。正しい歩き方は心も正してくれる」。ポスチュアウォーキングは、重心をコントロールして正しい姿勢できれいに歩けるとともに、筋力トレーニングとなる要素も盛り込まれ、「歩くピラティス」とも呼ばれている。体調が良くなった・サイズダウンした・身長が伸びた・背骨の歪みが治った・気持ちが前向きになったなど、その効果は枚挙にいとまがない。
 現在KIMIKOさんは、企業や学校、イベントなどで引っ張りだこ。国内でのレッスンはもちろんのこと、レッスンの呼び声はヨーロッパからもかかる。ポスチュアウォーキングを指導できる資格認定を受けた「ポスチュアスタイリスト」は、北海道から沖縄まで約100人。グループ全体でのべ約25万人の生徒が学んでいる。KIMIKOさんの夢は二つ。一つ目は「オリンピックの入場行進を手伝うこと。“日本人がきれいに歩く”をサポートしたい」。二つ目は「ポスチュアウォーキングを教科書に載せること。体を持つことを感謝して生きるのは全人教育そのもの」とKIMIKOさんは力強く話す。
 レッスンは1人2時間で7千円~1万円。ホームページは、http://www.posture.co.jp/。問合せは、master02@posture.co.jpまで。