ワイド岡山
クルージングツアーで行く
国立ハンセン病療養所
2018年05月10日号
国立ハンセン病療養所長島愛生園(岡山県瀬戸内市邑久町虫明)では毎年夏に瀬戸内海と長島の歴史的建造物を船で巡る参加無料のクルージングツアーを実施していて、毎回多くの乗船希望者がいる。
岡山県南東部、牛窓と日生の中間に位置する長島に日本初の国立ハンセン病療養所として長島愛生園が建設されたのは今から約90年前の1930年(昭和5年)のことだ。現在我が国におけるハンセン病患者はほぼ皆無となっているにもかかわらず、かつての差別・偏見の痕跡は社会に根強く残っている。その解消のため長島愛生園では毎年夏にJR日生駅前の日生桟橋から出航して瀬戸内海と長島の歴史的施設を船で巡る無料のクルージングツアーを実施している。今年も5月─9月の間に7回行う予定で、乗船希望者を募集中だ。
運行日は5月12日、6月16日と23日、7月14日、8月18日、9月8日と29日(全て土曜日)の計7回で、申し込み先着順で60人が乗船できる。ただし最低催行人数10人で小学生以下は保護者の同伴が必要。船は日生駅前桟橋を昼12時30分に出て緑の島々の間を縫うように約40分航行し、長島愛生園に到着する。愛生園歴史館ではガイドの解説付きで隔離政策の経緯を記録したビデオや資料、園内で使われていた特殊な道具などを見学できる。強制入所者と家族の別れの場となった桟橋などを巡ってから帰りの船に乗り、日生駅前桟橋着は午後4時10分頃になる。参加希望者は長島愛生園歴史館のHPもしくは(電0869・25・0321)で2日前までに申し込めばよい。
「人権回復の橋」架橋30周年
ハンセン病はかつて有効な治療法がなく、日本では明治以来強制隔離政策がとられてきた。しかし1945年頃に特効薬ができて治癒可能になり、長島に強制入所させられていた患者も全員が完治した。にもかかわらず隔離政策は1996年まで続き、あまりに長く社会との隔絶を強いられた元患者は完治しても島外で生活できる場を失っていた。長島では今も約300人の元患者が故郷に帰ることなくひっそりと暮らし、その平均年齢は80歳を超えている。
島といっても本土とは最短部で30mほどしか離れていない。1988年に橋が架けられ、今年架橋30周年を迎えた。長さ185mの小さな橋ながらその社会的意義の大きさから「邑久長島大橋」と命名され「人権回復の橋」とも呼ばれる。自家用車等でいつでも無料で通行でき、バスも渡れるようになった。島内の道路はきれいに整備されているが人影はまれだ。
長島には愛生園の他に邑久光明園があり、高松にも国立ハンセン病療養所大島青松園がある。今年4月、「瀬戸3園」の世界遺産登録を目指すNPO法人「ハンセン病療養所世界遺産登録推進協議会」の事務所が邑久光明園に開設された。島に上陸し園内を見学するとその歴史の重さが否応なく胸に迫って来る。岡山県民なら是非一度訪れてみるべき島だ。