仕立屋のワードローブ
ベストの一番下の釦は外すの?

2015年02月10日号

stty0210 ベストの前合わせには5、6個の釦が付いていますが、その一番下の釦は必ず外すべきだと強く主張する方がときにおられ、その根拠としてよくこんな逸話が紹介されます。19世紀の英国で開催されたパーティに皇太子エドワードⅢ世がベストの一番下の釦を掛け忘れたまま出席してしまいました。同席していた当時のファッションリーダーが彼に恥をかかせまいと思って自分も同じく一番下の釦を外して着用。これが流行の着方として受け入れられ、以後紳士のたしなみとされるようになったというのです。
 ベストの釦は全部留めてもかまいません。逸話には前提として「着崩すことが粋」だという今も昔も変わらぬファッション哲学があると私は思うのです。付いている釦をすべて留めるのは野暮というもの、一つ外して崩したところがオシャレでしょうとアピールしているのです。現代の若者がわざわざ穴の開いたジーンズを履くのも同じ感覚です。
 本来の形をドレスダウンさせることで新しいスタイルを生み出す手法はこれまで繰り返し行われてきました。現代人が着ているスーツのデザインはそうした変化を経て生まれたものですが、本来の形を知っておくと着こなしにも自信が持てるというものです。