空港・鉄道・港湾活す(57)
三原市の観光戦略プラン
交通の利便を活かして

2019年08月20日号

 この連載の「空港編」では1993年に三原の用倉山に開設された広島空港の成り立ちをリポートした。続く「鉄道編」は明治の時代に鉄道が敷設されるまでの道のりをたどり「港湾編」では江戸時代に北前船の寄港によって栄えた港町尾道の歴史を振り返ってきた。
 これらは遠い昔の話であり、今は新たな令和の時代を迎えている。この節目に、先人が残してくれた資源、交通機関をどのように街づくりに活かしてゆくかを改めて考えたい。
 それには人的交流、物流など様々な切り口があるが、観光の振興もその一つであり、前号の尾道に次いで今回は三原の観光戦略についてリポートする。西亀 悟

 

 かつて「企業城下まち」として栄えた三原市は基幹産業であった製造業で往時の勢いが薄れ、3次産業を中心とした産業構造に変わっている。

  将来に向けて市の経済を発展させてゆくには観光も産業の柱の一つとして、他圏との交流人口の拡大をきっかけに地場産業の振興、雇用の確保に繋げてゆくのが望ましい。

  こうした背景の中で三原市(天満祥典市長)は2013年に「観光戦略プラン」を策定して市民、関係団体とその実現に向け施策の推進に努めてきた。

 それをさらに推し進めるために今年5月「第2次観光戦略プラン」を策定。これは訪日観光客の増加など、近年の観光を巡る社会情勢の変化を踏まえたものとなっている。

  本編ではその内容に記者の考察を織り交ぜながら、これからの観光戦略がどうあるべきかを考えてゆきたい。

政策と連動して策定

 観光客は海外、国内、県内各地からやって来るものなので、市独自に戦略を練るよりも他の地域と連動して策定した方が厚みを増し、奥行きのあるものになってくる。

  三原市も国、県と整合を図りながら独自のプランを織り込み策定した様子がうかがえる。

  先号(8月1日号)の特集では、国内及び訪日観光客の数などを記して三原市の関連データーと比較した。

  今回は観光客がどこから何を期待して来るのか。その人たちはどこでどのくらいの額を消費しているのかといったアンケート調査の結果なども踏まえ、観光客の動向を探る。

観光客数集計の方法

  三原市の観光客数は210万人前後で推移していたが、道の駅「神明の里」がオープンした12年に初めて300万人を超える312万人となり、三原城築城450年事業を展開した16年に377万人、17年は452万と初めて400万人を突破した。

  以上、ここまで数字を並べてきて疑問なのがこうした観光客数はどのようにして数えているかであり、三原市の人口は約10万人。400万人はその40倍で、これだけの人がアタッシュケースを抱えてこの街で宿泊。マップを見ながら散策、食事をして、土産品店で買い物をしてくれているなら戦略プランなど作らずとも「市中に金が入る」ことになって商売は繁盛、市の財政も潤ってくるのだがーー。

  この街を歩いて観光客風の人をそんなに見掛けないし、食堂などで広島弁以外の言葉を聞くこともあまりない。私たち市民の感覚と、発表される観光客の数が掛け離れており、その集計データーの信憑性に疑問が湧いてくる。

  せっかくの機会なので、このようなデーターはどのようにしてまとめられているのか調べると、観光庁のHPに「観光入込客統計に関する共通基準」と称するガイドラインが載っていた。

  以前は各都道府県が独自の方法で調査・集計していたので、それぞれが発表するデーター間で適正な比較ができなかった。

  このため観光庁は09年に共通の基準を設け、観光目的や日帰り・宿泊の区別、観光客の出発地、観光地での消費額などを基準に沿って調査、集計するよう自治体に求めるようになった。

  そのガイドラインの最初に挙げているのが「用語の定義」であり、次のように区分して説明がなされている。

〔観光〕余暇、ビジネス、その他の目的のため日常生活圏を離れ、継続して1年を超えない期間の旅行をし、また滞在する人々の諸活動を対象とする。

〔観光地点〕集客力のある施設またはツーリズム等の観光活動の拠点となる地点を意味し、日常的な利用、通過型の利用がほとんどを占めると考えられる地点は対象としない。

〔行祭事・イベント〕地域住民の生活において伝統と慣行により継承されてきた歴史的催しや祭りなどを恒例として日を定めて行うもの。常設または特設の会場施設において行われる博覧会、見本市、コンベンションなどはイベントとして扱う。

〔観光入込客〕日常生活圏以外の場所へ旅行し、観光地点及び行祭事・イベントを訪れた者を観光入込客とする。

〔観光消費額〕観光地点を訪れた入の総消費額及びその属性別の内訳は目的別、居住地別、宿泊・日帰り別などして集計する。

 こうした基準に沿って集計された三原市の18年の観光客数は391万人で、県内各市を合わせると6500万人といった数になってくる。

データーで知る動向

 三原市に来た観光客の出発地別の割合は市内在住者が48・6%と最も多く、次に市内を除く県内から36・4%、広島県を除く中国・四国地方から9・6%、近畿が1・8%、関東が1・3%、中部が0・4%、東北・北海道からが0・1%で、海外からは0・8%となっている。

 これを見ると、観光客といっても市内在住者がおよそ半分、県内からが8割以上を占め、県外から来ているのは2割に満たないことが分かる。

  また、観光客が利用している交通機関で自家用車が69%を占めているのも近在の人が多いことを示している。

  そのほか鉄道が6・6%、バスが5・3%、船舶0・4%、その他が17・9%となっており「空港・鉄道・港湾を活かした街づくり」をこの連載のテーマに掲げ「観光編」のタイトルのもとで本編をリポートしている記者としては残念な状況となっている。

  それを踏まえたうえで、観光による振興を図る道筋を探るのがこの特集の狙いでもあり、そのためには三原市が観光客にアピールできるコンテンツにはどのうよなものがあるか。観光客がこの街に求めているニーズや期待していることなどを検証する必要がありそうだ。

  このほど市が策定した「観光戦略プラン」には、その傾向を知るデーターが網羅されている。

  たとえば、アンケート調査によって得た観光客のこの街に対する期待度については「自然・景観」「歴史・文化」「ご当地グルメ・スイーツ」などの分野で高いが「祭り・イベント」「芸術・芸能」「体験・アクティビティ」「地元の人々の交流」などについての期待度は低いといった調査結果が出ている。

  もっとも、この期待度というのは観光客が三原に来る前の期待度であり、市内を見聞して帰る時には「満足度」が高くなっている傾向にある。

 具体的には「祭り・イベント」については期待度が34・0%だったのが、満足度では67・1%に上昇し「自然・景観」は63・1%が86・3%に、「歴史・文化」については49・0%の期待度だったのが75・8%の満足度に変わるなど、いずれの分野においても来る前よりも高く評価されている。

  このギャップの要因として考えられるのは、観光資源を上手くアピールできていないということで、次回はこうした観光資源をどのようにアピールすれば観光客の増加に繋げることができるかを考えててゆきたい。※上の写真は筆者が選んだ三原市固有の景観。